LAS Production Presents

 

 

 

Soryu Asuka Langley

 

in

 

 

 

starring

Shinji Ikari

 

and

Misato Katsuragi

as Beauty Woman

 

 

Written by JUN

 


 

Act.1

MISATO

 

-  Chapter 4  -

 

 

 

 

 

 

「よぉし!シンジ、約束のものを与えようぞ」

「え?何?」

「おいおい、配達の前に言っただろ、いいものやるって」

「あ、そうだっけ。ごめん、忘れてた」

 それはそうだろう。

 リヤカー配達の重労働の後、刺激的な湯上りミサトと遭遇し、

 さらにはその帰りはアスカを荷台に乗せて戻ってきたのだ。

 ケンスケの謎めいた言葉など忘れてしまっても仕方がない。

「つれないなぁ、シンジ。まあいい。これを見たら間違いなく今の態度を反省することであろう」

 そして、ケンスケは自信たっぷりにシンジに一枚の写真を手渡した。

 シンジは何気なく受け取り、L版の写真を見る。

 その瞬間、シンジの目がかっと見開き、写真を持つ指がわなわなと震えた。

「こ、これは…」

「ふっふっふ。どうかな?」

「……」

 碇シンジ、17歳。

 ケンスケに返事もできずに、渡された写真を凝視している。

 そこに写っているのは、アスカだった。

 首にかかったバスタオルで胸を押さえている。

 今日の昼過ぎの出来事なのだが、色々な事があったので随分前のような気がする。

 その水着TOP引っ剥がし事件の時に撮影された写真だ。

 さすがにカメラマンを目指しているケンスケである。

 シャッターチャンスは逃していない。

 あの騒動の時に影が薄いと思っていたら、こっそり撮影していたのである。

 その写真をシンジが凝視しているのには訳がある。

 

 見えそうで見えないのだ。

 

 胸元を押さえていた手が少しずれてバスタオルの外側がまくれ上がっている。

 胸のふくらみが1/4ほど見え、もう少しで乳首も見えそうな感じなのだ。

 シンジは思わず写真を斜めから見た。

 そうすれば見えるような気がしたからなのだが、

 一心不乱に見ているその様子にケンスケは可笑しくて仕方がなかった。

「ケンスケ…?」

「何だ?」

 シンジが写真から目を上げた。

「もっとあるんだろう?出してよ」

「いや、際どいのはそれが一番だ。他のは使えないぞ」

「出してよ」

「疑い深いヤツだな。ほら見てみろよ」

 馬鹿らしくなりデポショップの袋ごと渡したのがケンスケの間違いだった。

 シンジはさっと袋をひったくると、扉に突進した。

「あ!何するんだ!」

 意表をつかれたケンスケは反応が遅れた。

 従って、あっという間に民宿の廊下に飛び出したシンジを追いかけていくのをあきらめてしまったのだ。

 ケンスケは肩をすくめた。

「シンジのヤツ、そんなにあの金髪にいかれてしまってるんだ。

 ま、ここではできないだろうし、トイレか?」

 相田ケンスケ。

 今回は読み違えた。

 いや、結果的にはアスカのシンジへの信頼度が上がったわけだから良かったのだが、

 数分後、精神的及び肉体的にケンスケはダメージを受けることになる。

 

 シンジがどこで何をしているのか想像してニタニタ笑っていたケンスケは、アスカの襲撃を受けた。

 

 民宿青葉の別の階に泊まっているアスカたちのところに、シンジが駆け込んだのである。

 すべてはアスカ親分に対する恐れからの行動であった。

 もし、こんな写真をケンスケが持っていることがバレたら、どんな目に合わされるのだろう?

 写真を見ているうちに、想像はどんどん悪い方向へ向かって行ったのだ。

 そこで、ネガごと奪い取りご注進に及んだわけであった。

 碇シンジ。17歳。

 親友よりも親分を選んだ。

 今日始めて出会ったアスカ親分を。

 

 肉体的にはアスカの蹴りを中心にした攻撃でダメージを受け、

 精神的にはアスカの後から来たマナの一言で再起不能寸前にまで追い込まれた。

「最低。スケベ男」

 この一言は効いた。

 心の中で滝のような涙を流していた時、シンジがぼそりと謝った。

「ごめんよ、ケンスケ」

「謝ることなんかないわ!よくやったわね、シンジ!褒めてあげるわ」

「あ、ありがとう」

「さすがはシンジ君ね。女の子の味方よね」

 マナにまで褒められ、シンジは少々天狗になった。

 こんなのを撮ったケンスケが悪いんだ。

 僕はいいことをしたんだ。

 そうだ、僕は間違っていない!

 自分の裏切り行為を正当化し、自己完結したシンジだったが、

 そのポケットの財布の中に一番際どい写真が一枚隠されていたことを本人以外の人間は知らなかった。

 ともあれ、ケンスケはダメージを受けたまま畳の上に転がり、

 片やシンジはアスカの部屋で親分とマナから饗応を受けることとなった。

 

 さて、人数が合わない。

 男性陣のトウジは今晩が浜茶屋の宿直だから姿が見えなくて当然なのだが、女性陣のヒカリは?

 昼間のマナのキューピット役が巧くいったのか、

 ヒカリは浜茶屋を訪れていたのだ。

 9時になると空は暗くはなっているが、花火をしている連中などがいてそんなに寂しくはない。

 ラジオでナイターを聞いていたトウジは、控えめな音のノックで戸口の外にヒカリが立っていることを知った。

 昼間のお礼だと差し入れを持ってきてくれたのだ。

 食べ物や飲み物はふんだんにあったのだが、彼女が持ってきてくれたというだけでその価値は断然違ってくる。

 最初は言葉少なな二人だったが、徐々に打ち解けてきた。

 トウジは思った。

 次の宿直の時は、箱からアレを出して持ってきとかなあかんなぁ。

 いや、せやけど、無理矢理はあかん。

 こんなええ女の子に無茶したらあかん。

 心の中で逸る気持ちを抑えながら、トウジは幸福感に包まれていたのだ。

 それはヒカリも同様である。

 彼女はこうやって男のところを訪れている自分が信じられなかった。

 永世名誉委員長とまで言われている彼女だ。

 その物堅さには定評があった。

 ところが、今こうしてこんな夜分に男性と二人きり。

 もしかしたら…という恐れはあったが、

 それよりもこの関西弁のぶっきらぼうな少年と話がしたいという気持ちを抑えることができなかったのだ。

 二人はコーラを飲みながら、お互いの学校のことを話し合った。

 いつの間にかナイターは終わり、ニュースに替わっていた。

 話に夢中になっていた二人は、そのニュースで加持の名前が出てきたことに気も付かなかった。

 もっとも、加持リョウジという名前には心当たりはなかっただろうが。

 

 その名前を知る人間の中では、彼女が最初だった。

「母さん。ミサトのところへ行ってくるわ」

「気をつけてね」

「私は大丈夫。心配なのはミサトよ。自暴自棄にならないようにしなきゃ」

 リツコは白いヘルメットをかぶるとアクセルを回した。

 轟音の割にはよたよたと進みだす原付カブ。

 荷台のブラックボックスには吉田鮮魚店と白いペンキで書かれている。

 近所の商店のを借りたのだ。

「魚臭いわね…」

 

 その2時間後。

 失意の中で布団にうつ伏せているケンスケと、

 数年分の幸福を一日で消化したような気持ちのシンジ。

 その二人の部屋にアスカが来襲した。

「ちょっと、起きなさいよ!」

「わわわ!あ、アスカ?」

「夜這いなら静かにやれよ、もう…ぐわっ!」

 一撃でケンスケを黙らせたアスカは、シンジに詰め寄った。

「な、な、何?」

 隠し持っている写真がばれたのかと思ってしまったシンジだったが、

 アスカの顔には憤りはなく、悲痛な表情だった。

 その顔を見てシンジもとんでもないことが起きたことを察知したのである。

 

 TVのニュースでミサトの婚約者の写真が出ていたと聞き、

 シンジはアスカとシゲルのいる母屋に向かった。

 マヤたちと軽いパーティーをしていたシゲルだったが、

 さすがにアスカから事情を聞くと真剣な顔になった。

 そして、TVの電源を入れる。

 11時を過ぎていたから色々なチャンネルでニュースをしている。

 何度かチャンネルを変えているうちに、アスカが「あっ!」と叫んだ。

 丁度、画面で加持の顔写真が映ったところであった。

『繰り返します。日本時間の午後9時30分、中東のサルジア王国にて女王を狙った自爆テロが起きました。

 サルノ女王は無事でしたが、30名以上の死者を出した模様です。

 当時はサルノ女王を迎えたマスコミのレセプションが行われており、

 日本人のジャーナリストも多数参加しており、その安否が気遣われています。

 只今、サルジアの日本大使館により参加邦人のチェックが行われております。

 現在、取材に訪れていたフリーのルポライター加持リョウジさん30歳と見られる遺体が死亡者の中に発見されています。

 遺体の損傷が酷く、所持していたパスポートにより加持さんではないかと……』

 アスカたちは言葉もなく、テレビの画面を見つめていた。

 シンジがアスカを見る。

 あの人がそうなのかという無言の問いに、アスカも黙って頷いた。

 ミサトのコテージのいたるところに貼られていた写真。

 ミサトと肩を抱き合っていた、あの写真。

 アスカは顎を上げた。

 天井を見つめていないと、涙が零れてくる。

 結婚前だって、あんなに幸せそうにしていたのに……。

 

 その夜、ミサトと知り合った二人は眠れなかった。

 シゲルが今ミサトに会うのはダメだと断言したので、今夜はコテージに行くことはやめた。

 それに、実際どんな顔をして、どんな言葉をかければいいのか、見当もつかない。

 こういう時は大人じゃないということを痛感してしまう。

 アスカは口惜しかった。

 天井を見つめて、暗闇の中溢れてくる涙を拭おうともせずに、ミサトのことを思った。

 隣には健康そうな寝息を立てているマナと、上気した顔で帰ってきてスヤスヤ眠っているヒカリ。

 ミサトのことはよく知らない二人には、アスカの苦悩はわからないだろう。

 明日…。

 シンジと話そう。

 ただ一人、ミサトとの関係を共有しているシンジだけにしかわかってもらえそうもない。

 そう決めてしまうと、安心したのかアスカは眠りについた。

 悲しみのどん底にいるであろうミサトに申し訳なく思いながら。

 

 そのシンジは不謹慎だが、ミサトのふくよかな胸の感触を思い出して仕方がなかった。

 いやらしい感情ではない。

 いや、実際はかなりいやらしい想像をしていたのだとも言える。

 あの胸に抱かれた男性が死んだ。

 あの柔らかく、とても気持ちのよい胸に抱かれていた男が死んだのだ。

 加持の事をよく知らないシンジは、そんな性的な部分を通して加持のことを考えている自分を恥じた。

 TVモニターで見た加持の顔写真を思い出し、シンジは溜息をついた。

 確かにミサトさんとお似合いだ。

 僕なんて子供だ…。

 アスカと似たような事を思いながら、その実かなりかけ離れた内容である。

 やはり、親分と子分なのだろうか。

 親分は親分なりに考えていることが高度である。

 何か僕にもミサトさんの力になることができたら…。

 シンジは自分に何ができるかを考えた。

 しかし、何も思いつかない。

 いくら考えても何も思いつかない。

 ZZZZZ〜。

 安らかに鼾をかいているケンスケに、何故か枕を投げつけてしまったシンジである。

 その枕に抱きついて頬を寄せているケンスケはどんな夢を見ているんだろうか?

 大方の想像はつくのだが。

 

 少し時間を戻そう。

 リツコが駆けつけた時はミサトはただ茫然と床に座りこんでいた。

 ただテレビの音声が流れつづけているだけ。

 ニュースはとっくに終わり、お笑い芸人が姦しく喋りまくっている。

 リツコはまずテレビの電源を切ると、ミサトの前に蹲った。

「ミサト、聞いたのね」

「……」

「さ、こっちに…」

 何とかミサトを立たせると、彼女をベッドに向かわせる。

 ミサトは人形のように何の反応も見せずに、おとなしく横になった。

 そして、リツコはその枕もとに椅子を持ってくる。

 そこに座るのかと思うと、椅子を置いたままにして部屋を出た。

「灰皿はと…、どこかしら?」

 周りを見渡し、サイドボードでお目当てのものを見つけると、

 リツコはそれをテーブルに置き、自分はテーブルに直に腰をかけた。

 上着のポケットに手を入れ、タバコとライターを探す。

 タバコはあったが、ポケットに入れたはずのライターがない。

「慌ててたのかしら。私としたことが」

 自嘲して笑うと、リツコはひょいとテーブルから降りる。

 そして、台所へ向かうと、ガスコンロに火をつけて、口に咥えたタバコを近づける。

 研究所でもよくやっていることなので、髪の毛を焦がしたりはしない。

 コンロの火を消し、タバコを大きく吸い込み、少しづつ唇の端から煙を洩らす。

「ふぅ…、いつ頃かしらね。反動が来るのは」

 リツコは瞑目した。

 加持が死んだ…。

 信じられないのは確か。

 明日の朝になったら、真偽を確かめなきゃ…。

 もし真実なら…、ミサトをどうしようか。

 大雑把なように見せかけてるけど、あの子は人一倍繊細なんだから。

 今晩は目を覚まさずにあのまま眠ってくれたらいいんだけど…。

 リツコは暗い目を、ベッドルームに向けた。

 はぁ…、帰省してまで徹夜するとは思わなかったわね。

 

 

 

 

 

 翌朝。

 悲しみの淵にいる者の心など考えもせず、空は青く、海もまた青い。

 

 

 

 シンジは浜茶屋へ。

 シンジは準備に忙しく、いつしかミサトの事を忘れてしまった。

 薄情なようだが一つのことをしながら別のことを考えられるような彼ではない。

 わざとそう仕向けているのがシゲルだということにも、きっと気付かないだろう。

 青葉シゲル。24歳。伊達に年は取っていないのだ。

「あの…青葉さん?」

「あ、なんだい?マヤちゃん」

「昨日のこと…ですけど、いいんでしょうか。このままで」

 清楚なワンピース姿の伊吹マヤが小声で言う。

 友人たちは海に繰り出したのだが、彼女は運悪く泳げる状態ではない。

 アノ日である。

 従って海には行かず、シゲルの手伝いをしようと考えたのだ。

 実は、青葉シゲル。マヤのアノ日の事を聞き及び、今日は綿密な計画を練っていた。

 浜茶屋はケンスケたちに任せて、周辺をドライブ。

 海に入れないのだから、公然とマヤと友人を引き離すことができる。

 そして、二人の距離を一気に短くし、今日中に“シゲルさん”と名前で呼ばせるという壮大な計画だった。

 が、頓挫した。

 ミサトの一件である。

 さすがに昨晩の翌日に、ドライブなどできない。

 そんな事をすれば、マヤの好感度が凋落してしまうことなど火を見るより明らかだ。

 もっともそんな彼女だからこそ、シゲルも真剣になっているのだが。

 ということで、シゲルは今日も浜茶屋の監督。

 その選択は正しかった。

 マヤが手伝いをしたいと言い出したのだ。

 周りにガキどもがうろちょろしてはいるが、これはチャンスかもしれん。

 シゲルは気張った。

 が、そういう時に一言多くなってしまうのがシゲルの悪い癖だ。

「まあね、あいつらまだ子供だからな。それに今は葛城さんも相手できないだろうし」

「ずいぶん親しいお客様なんですね」

「そりゃあ、この町一番の巨乳だし……」

 伊吹マヤはどう考えてもバージンである。

 その上、潔癖症もいささか加わっている。

 下ネタ厳禁。

 それはマヤと付き合う上での必須要件である。

 それをこの時、シゲルは口を滑らせてしまった。

 これがアスカならば悪態とか皮肉で来るのだろうが、相手はマヤである。

 黙り込んでしまった。

 そして、テーブルの拭き掃除を始めるマヤ。

 シゲルは瞑目した。減点5点ってところか…。

 やばいなぁと思いながらも、“不潔です”と浜茶屋から出て行きはしないということは、結構俺の事を……。

 青葉シゲル。すこぶる楽観主義者であった。

 

 アスカは海に…。

 マナとヒカリに引っ張り出されてしまった。

 そんな気分ではなかったのだが…。

 ただ、シゲルが言うように、ミサトと会ってもどうしようもない。

 とりあえず、身体を動かして考えるのをやめよう。

 アスカはそう思い、昨日買ったばかりのビキニを着た。

 シンジが選んだチェックの柄のビキニ。

 アイツ、値段の高いの選んじゃって…。

 思わず笑いがこみ上げてきたアスカだったが、その笑いは途中で凍り付いてしまった。

 バイト…ミサトが紹介してくれるって……。

 自分で探さなきゃ!

「アスカ、それ高かったんじゃないの?」

「うん、ちょっとね」

「あ!もしかして、それ碇君のお見立て?」

「ええっ?なになに?シンジ君が選んだの?」

 真っ白のビキニのマナが急に迫ってきた。

 アスカは誤魔化すつもりだったのだが、その勢いについ頷いてしまった。

「嘘!あ、わかった!アスカがこれがいいでしょって、無理矢理返事させたんだ。

 それで1万円以上の買い物させたんでしょ!」

 意外に鋭いマナである。

 選んだのはアスカではないのだが、

 さすがは女の子というべきか、安物の水着でないことはわかっているようだ。

「はん!アイツからは7800円しかもらってないわ!」

「あ、アレ、7800円だったんだ。特売?」

「うっさいわね!じゃ、アンタのはいくらだったのよ!」

「へっへっへ、8200円。私の方が高いもんねぇ」

 マナは胸をはった。

 アスカより二周りは小さい胸を。

 その丁度中間くらいのサイズのヒカリは、二人のやり取りに肩をすくめた。

 まったく、この二人は…。

 まるで子供なんだから…。

 キス一つしたわけではなく、ただ男性と二人だけで2時間ばかり話しただけで、少し大人になった気分のヒカリだった。

 マナには全くその意図はなかったのだが、その挑発でアスカはしばらくミサトの事を忘れることができた。

 

 そのミサトは悲しみのどん底にいた。

 報道された加持の死を確かめること一つできない。

 リツコがいろいろな場所に連絡をとっては見たが、得ることのできた情報はテレビ報道の域を出ない。

 缶ビールに手を出そうとしたが、リツコがそれを許さない。

 ただ茫然とベッドに座り込んでいるだけ。

 リツコは乗ってきた原付を返却しないといけない。

 しかし、ミサトを一人にすることは危険だ。

 リツコは電話機の短縮ボタンに手を伸ばす。

 そこには“えびちゅ”と書かれていた。

 

「私?私がミサトのところに?」

「ああ、赤木さんって人からのご指名だ」

「赤木って、あのブティックの…」

「葛城さんの友達だろ。確か金髪に染めてる」

「で、私に何をしろって…」

「アルバイトだそうだ」

「はい?」

 昼御飯に立ち寄った浜茶屋で、アスカはシゲルに声を掛けられた。

 ミサトの家に来て欲しいとの、リツコからの伝言だそうだ。

 しかもそれがアルバイトだと。

 アスカは首を捻った。

 どうもあの金髪黒眉毛の女の人はよくわからない。

 ただ、ミサトが気になるのは確かだから、アスカはすぐに彼女のコテージに向かおうとした。

 運転手つきで。

 

「どうして僕がこんな目に!」

「うっさいわね!黙って漕ぎなさいよっ!」

「歩いて行けばいいじゃないか」

「何言ってんのよ!アンタ、ミサトのことが気にならないの?」

 シンジは黙った。

 それは気になる。

 きっと哀しんでるんだろうな…。僕に慰めることなんかできるんだろうか?

 あ、でもアスカなら巧くできるかも。

 そう考えたシンジはアスカに協力しようと決意したのだ。

 そのアスカは、一人でミサトに会うのが怖かったのだった。

 それでシンジを利用した。

 悪態を吐きながらも、心の中では密かにシンジに謝っていたアスカである。

 二人乗りの自転車は走る。

 業務用の自転車だから荷台が広く、アスカは横座りしかできなかった。

 彼女の性格から考えると、信じられないほどの光景である。

 荷台に馬乗りになるか、後輪の止め具で立つか。

 その二つに一つが、間違いなくアスカらしい乗り方であろう。

 それが横座りだ。

 しかも安定が悪いので、シンジの腰に右腕を廻している。

 黙りこんでしまうと、シンジはアスカの腕が気になって仕方がなかった。

 それに、腕に繋がっている、肩と胸。

 確認はできないが、時々背中に当たっているのは胸じゃないのかと思う。

 確認したい。

 当たるか当たらないかという微妙な感触。

 だからこそ、余計に気になってしまう。

 アスカは胸大きそうだな…、ミサトさんには負けるけど…。

 その時、シンジは行き先の状況を思い出してしまった。

 一層黙り込んでしまうシンジ。

「アンタ、何黙り込んでるのよ?まさか、私にもっとくっつけとか考えてるんじゃ」

「そ、そんなこと考えてないよ。今は」

「今?じゃ、前は考えてたんだ?このエッチ!」

 アスカは沈黙が怖かった。

 黙っていると、ミサトのことを考えてしまう。

 どんな事を話せばいいのか、どんな顔をすればいいのか、全く見当もつかない。

 一人じゃなくて本当によかった。

 こんな情けないヤツでもいてくれると助かる。

 アスカは何とか会話を紡いでいこうとした。

 不安感を消すために。

 今のアスカは、シンジとの会話がそれ以上の意味を持っていることに気付きもしなかった。

 そして、今の二人が周囲から見るとカップルにしか見えないことも。

 おそらく、誰かにそう言われても、笑い飛ばすだけだろうが。

 前方にコテージが見えてくる。

 シンジは喉がからからになってしまった。

「あ、アスカ、もうすぐ着くよ」

「そう…。シンジ、言葉には気をつけなさいよ」

「う、うん。わかった」

 

 この数時間後、今ペダルを漕いでいる子分がミサトに抱かれてファーストキスを交わしていることなど、

 この時のアスカには思いもつかないことであった。

 

 

 

TO BE CONTINUED

 

 


<あとがき>

 ああ、まだまだ終わりません。

 加持が死んだという報道がミサトのところにまで直に届いていないのは、加持がフリーだからです。しかもミサトのことは隠してますから。何故かと言うと、婚約者がいると何かと不便ですので。加持の趣味のためには。

 さてさて、次回はいよいよシンちゃん喪失!おい、ここは非15禁だろ?

 では、次回、ミサト編その5で!

2003.08.10  ジュン

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